「横溝正史少年小説コレクション⑦南海囚人塔」(横溝正史)

ついに完結、横溝正史少年小説コレクション

「横溝正史少年小説コレクション
  ⑦南海囚人塔」(横溝正史)柏書房

ボルネオの奥地に、
文明と未接触のまま存続している
倭寇末裔の国・やまと国。
その国からの使者が
龍太郎のもとに現れる。
やまと国が
危機に瀕しているというのだ。
龍太郎は蘭領印度へと向かうが、
そこに国籍不明の
潜水艦が現れ…。
「南海の太陽児」

横溝正史のジュブナイル作品を集めた
「横溝正史少年小説コレクション」も、
この第7巻を持って
めでたく完結しました。
これまで知られていた
旧角川文庫本の多くが
山村正夫編集版であり
オリジナルでなかったこと、
そしてジュヴナイルであるが為に
未発表作品が
丁寧に発掘されてこなかったこと、
その二つを考え合わせると、
この7巻に及ぶシリーズには
大きな意義があったと言えます。

速雄と勇二の乗った上海丸は、
二三百年前のものと思われる
漂流船と遭遇する。
夥しい白骨、一箱の財宝、
謎の古文書、そして奇妙な老人。
その夜、上海丸は
下級船員として乗り込んでいた
海賊たちの手に落ちる。
二少年の運命は…。
「南海囚人塔」

この巻の特徴は、
なんといっても少年冒険もの2作が
収録されていることでしょう。
戦前の緊迫した国際情勢を
反映しながらも、
少年を主人公とした
一大冒険スペクタクルに徹した
「南海の太陽児」。
そして掲載雑誌の散逸によって
これまで単行本文庫本化していなかった
幻の冒険小説「南海囚人塔」。
この2作品が日の目を見ただけでも、
本シリーズの意義は十分にあります。

伯父の小田切博士とともに
黒薔薇荘へやってきた富士夫は、
深夜、大時計から
道化師の格好をした男が
部屋に侵入してくるのを
目撃する。
翌日、時計を調べてみると、
後ろの板が外れた。
もしや抜け道があるのではと
富士夫は考え…。
「黒薔薇荘の秘密」

小説家・駒井啓吉は
一個の五十銭銀貨を
マスコットにしていた。
ある易者から釣り銭として
受け取ったものだったが、
それは二つに割れ、中に
暗号文が隠されてあったのだ。
それが雑誌で公表されると、
怪しい男が
啓吉を訪ねてきて…。
「謎の五十銭銀貨」

良平の叔父・欣三が
古物商から購入した絵は、
全面けばけばしい赤で覆われた
悪魔を描いた油絵だった。
だがそれを買い求めたとき、
怪しい男が現れ、
それを譲るよう強く迫ってくる。
男の要求をはねのけた
欣三だったが、その夜…。
「悪魔の画像」

貧しい家庭から引き取られてきた
少女・由紀子は、
その家に何ともいえない
恐ろしさを感じていた。
あかずの間となっている土蔵に、
おばさんはいつも
食事を持って行っているのだ。
この家には
由紀子の知らない人間が
まだいるのか…。
「あかずの間」

さらには短篇4篇も
しっかりと考えて収録されています。
「黒薔薇荘の秘密」では、
これまで本文に添えられていた
2枚の図版が、
なぜか初出雑誌のものとは
左右逆となっていて、
本文中の描写と
矛盾する点があることから、
正しいものに差し替えられている点は
見逃せません。
私も長年、
旧角川文庫本を所有しながら、
その矛盾点には気づきませんでした。
編者の日下三蔵氏が
細心の注意を払って編集作業を
行っていたことがわかります。
また、「あかずの間」のレトロで
少女漫画チックな挿絵が
収録されていることも
喜ばしいかぎりです。

山中で助け起こした老人は、
春木少年に自らの義眼を手渡す。
その直後に現れた
怪ヘリコプターは、
その老人を連れ去った上に、
機銃掃射まで行った。
春木少年が
渡された義眼を調べると、
中から出てきたのは
金貨の欠片だった…。
「少年探偵長」

そしてなんといっても素晴らしいのは、
海野十三早逝による中断作品を、
横溝が代理執筆した「少年探偵長」まで
収録されていることです。
海野名義ですので本来は
外されてもやむを得ないところですが、
横溝が苦心して執筆した作品です。
ファンとしては
読みたいに決まっています。

このシリーズこそ、
横溝正史生誕120年没後40年に
ふさわしい企画です。
最終巻を横溝の命日である
12月28日に合わせるあたりも
何ともいえません。
埋もれている作品に陽の光を当て、
それを欲している人のみならず、
新しい読者層を開拓すべき
出版事業を行う。
これこそ出版社のあるべき姿です。
柏書房のファンになりました。
これから柏書房を応援します。

(2022.2.11)

jplenioによるPixabayからの画像

【今日のお知らせ2022.2.11】
以下の記事をリニューアルしました。

【今日のさらにお薦め3作品】

【柏書房:
  横溝正史少年小説コレクション】

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